Night of the Livingdead  冬の夜話 ・ 雪男
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冬の夜話 ・ 雪男

「おれは……雪男だ」
 少女の目が驚愕に見開かれた。
「ウッソ、雪男がこんな美形なワケないじゃない」
 少女は雪男の腕からするりと下りると、雪男の顔をまじまじと見上げ、それからくるりと一周、雪男の周りを回ってそのサマを検分した。青白く透き通るような肌ときりりと凛々しく上がった両眉に形よい顎、吹雪を髣髴させるような腰ほどまである長い銀の髪、一体何を織り込んだらこのような美しい模様になるのか、白地に羽根のような光沢模様の入った着流しを身に付けている。角度によっては藍にも見える不思議な銀の瞳、その瞳を真顔で覗き込んで少女は言う。
「こう、白い毛がもじゃもじゃーっと、ごつくて不細工な、こう、古代の山ザルみたいな!」
 ああ、そのことか、と雪男はやれやれと小さく肩を落としてため息をついた。
「それは嘘だ」
「ウソっ?」
 雪男はうなずいて。おれのこの姿がそんな山ザルに見えるか、と銀の眼差しを一度伏せて苦笑する。
「昔、そこの湖に落ちた女を助けたことがあったんだが、その翌日、おれに惚れたと言っておれの元にいきなり転がり込んで来た。その夫が探して連れ戻しに来たんだが……ひと目おれを見るなり……なんというか、その……」
 雪男はいったん言葉を探しあぐねたあと、よくは分からんが、といった表情で、
「負けを認めたらしい?」
そう言って、しげしげと首を捻って怪訝な表情をした。
 女はおれが好きだと、おれの妻になると断言し、夫を追い返しやがったんだ、と言って雪男は、はーあ、とまるで嫌なことでも思い出したかのような表情で吐息をついた。
「夫は、村に帰るや白い毛むくじゃらのまるで山ザルのような凶暴で図体のでかい不男な雪男が妻を浚って逃げたのだと、戦いはしたがその凶暴ぶりに全く敵わず妻を取り戻せなかったのだと触れて回った、戦ってもいねぇのに。つまりは、見てくれで全くおれに敵わぬと悟り、妻にも振られて、その腹いせに雪男であるおれのことをそんな不細工な山ザルと触れて回ったらしい。おれとしてはとんだ迷惑だったし、その強情な家出女をとっとと連れ帰って欲しかったんだがな」
「そ、その女の人はどうしたの?」
「どうもこうも……おれに惚れたと強情に言うや土間に座り込んで居候を決め込んだが、やはり寒かったのだろうな? 三日ともたずに死んでいた」
「死んでいた、って、そんな他人事な……」
「しょうがないだろ、他人事だ」
 雪男はキッパリとそう言って、肩に積もり始めた雪を払った。銀色の真っ直ぐな髪が揺れ、雪が舞い上がるその様ははっとするほどに美しかった。
yukio
 
 雪男はちら、と瞳を細めて少女を見下ろした。
「雪の降るうちはまだいい。雪が止んで冷え込む前にさっさと家に帰るんだな」
「ね、ねぇ、その女の人は?」
「だから死んだって」
「じゃなくて! 名前とかさ、知らないの? なんかさこう、あんたもっとなんか情ってのっつーかなんかないの? 死んだってそれで終わりなわけ? 死体は?」
 ヘンなところに感心を持つんだな、と雪男は首を捻って。
「山奥の洞窟に片付けてあるが」
「ちがう! 葬ってある、っていうの! そーゆーのは! 片付けてあるってナニヨソレ」
 案内しなさい、と存外に強い言葉で命じられて、雪男はしばし目を丸くしたものの、伸びた娘の手にぎゅむぎゅむと首根っこを締め上げられ、仕方なく案内することにした。当人の気が済まない限りこの娘は何処までも付きまとうだろうとそんな嫌な予感がしたのだ。とっとと追い返したかった。

 少女と出会った湖のほとりから雪深い山中をずいぶんと歩いて。ずっとずっと奥深い山中に分け入り、沢を越え、崖を登り、ようやく、氷で凍てついた洞窟に着いた。ひどく過酷な道のりだった筈なのに、それでも一言も文句を言わず黙って後をついてきた少女、その雪まみれになったひどい有様を見て、雪男は感心したように銀の目を細めた。
「よくあの崖を登りきったな」
「あ、あんたがあの時手を貸さなかったら、思いっきり滑落して死んでたわよ、一生呪って呪って呪い殺してやるんだから」
「………………ずいぶんと恐ろしいことを言う」
 しかしどこかで聞いたような台詞だ、と雪男は思いながら、だが思い当たるものもそうそうはあるはずもなく、なんとなくすっきりしない気分で、少女の頬や睫毛に付いた雪を指先でほろってやる。それから洞窟の奥へと導いた。
「この洞窟は年中凍ったままの氷洞でな」
 そう言って指し示す雪男のその先には、一人の女が氷の台に横たわっていた。まるで眠るように目を伏せ、表情は穏やかに、うっすらと蒼白く凍っていた。それはむしろ氷像のように美しい状態だった。
「こんなにちゃんと弔ってくれているなんて……」
 少女は少し胸が詰まったように、言葉を飲み込んだ。
「あんた、ずいぶんと迷惑そうなこと言ってたけど。案外この女の人のこと、大事に思ってくれてたんじゃない」
「いや?」
 雪男はきょとん、と首を振って。
「んな女の死体なんざ目に入るところに置いておいても邪魔なだけだろが。ここはおれも滅多にこないし、年中凍ってるから都合のいい物置で……へぶし!」
 せめて大事に弔ってたって言いなさいよ! と言われて雪男はグーで殴られた左頬を撫でさすりながら眉根を寄せた。
「ずいぶんと理不尽なことをする」
 なぜおれがこんな目にあうのだ、とぼやきながら、凍った女を見下ろしていた。確かに、言われてみれば美しい女かもしれない、と今更ながらに思って。だからといって別段情が湧くわけでもない。むしろこの少女が異様に興味を示さなければ、すっかり忘れ果てているところだったと言ってもいい。
 少女が自分の肩を抱きしめるようにしてぶるりと大きく震えた。
「さむ……寒くて死にそう」
 ああ、と雪男は微笑んだ。外の雪も既に止んでいる。極寒のこの山間では日が少しでも傾きだせば一気に冷え込んでくるだろう。
「あと半刻もこうしていれば間違いなく死ぬぞ?」
 どかっ! といきなり胸板を突き飛ばされて、雪男は氷の壁にしたたかに背中を打ちつけた。
「な!」
「なにその何処までも他人事な言いっぷり! 他人の奥さん寝取っといて今度はその娘まで憑り殺そうっての!?」
「ね、寝取ってないぞ……失敬な、あれは向こうが勝手に押しかけてきただけだ、勝手にやってきて勝手に死んだんだ、え? む、娘?」
 そういえばその強引で独り善がりな話の仕方はよく似ているかもしれない、と雪男はようやくさきほどからなにやら気に掛かっていた既視感のようなものの理由を悟った。
「そうよ、娘よ、よーっくご覧、似ているでしょ」
「面影……」
 雪男はしばし少女のカオを眺め、それから凍り付いて横たわっている女と見比べ、うーん……と真顔で唸った。
「では、あの愚かな嘘つき男の娘か……気の毒に頭が少し弱……へぶし!」
 私は母さんの連れ子だってば! と言われたが、なぜそんなにイチイチ鉄拳が飛んでくるのか雪男には分からない。
「帰るわよ、送ってって。おぶっていって」
 うむ、凍死する前に帰ると良かろう、と応じかけて、雪男はその後半の言葉に目を剥いた。
 キッチリと拒否すべく言い返そうと己の腰に手をあて真正面に睨みつけると、少女が殊勝げに眼差しを足元に落とした。
「だって、足がもう、歩けないんだもの」
 見れば、少女の片足は裸足で、雪道を歩いたのと何処か途中で氷の欠片でも踏んだのだろう、真っ赤な血が流れていた。
「いつからだ、なぜ言わん」
「言ったら、途中で追い返されると思って。途中で脱げたの、でもあんたがどんどん先行っちゃうから……追いつくので必死だったの」
「…………」
 雪男は仕方なく少女をおぶって雪山を下りた。里へと向かおうとする雪男の耳をぐいぐいと引っ張って。
「違う。行くのは里じゃないわ」
「なに?」
「私、決めたわ、あんたのお嫁さんになる、あんたのお家に連れてって」
 すかさず雪男は背中から少女を投げ出そうとしたのだが。刹那それを察したらしい少女がガッチリと首に腕を回したため、二人揃って背中から深い雪の中にどさりと折り重なって倒れこんだ。
「冗談は止せ、離れろ! 呪いか、これはあの女の呪いだなっ!」
「雪男って、女に惚れても三日三晩、その女が自分の下に留まってくれないと妻に出来ないんだってね、私、頑張って三日三晩絶対に生き延びるから!」
「それは昔の言い伝えだし、第一、それは雪男が人間の女に惚れて連れ去った場合の話だ、押しかけ女房はごめんだ!」
 母娘揃って一体何の嫌がらせだっ! と雪男は叫んだ。

(作: コハリトさん

屍製作所在籍中のコハさんがやってくれました(感涙)!
やぱ活きのいい女の子を書かせたら天下一品すよコハさんは!
こんな冬の夜にもってこいのある意味怖い(?!)夜話。
夜勤(?)明けの自分にご褒美。ほんとーにありがとうございました!


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テーマ:自作イラスト - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2006/01/17(火) 22:50:08|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

雪男の名前は

凍死郎、でいい? ←ダメ(爆)

 さくっと読み飛ばしてくれれば、と思っていたんですが……案外喜んでくれたりしました? コハにしてみれば勝手にオモチャにしてしまいましてすいませんでした。
 どんな美形でもやっぱ相手が雪男では抱かれたらコッチは死んでしまいますがな、と思ったのですが、雪男だって、ぬるい人間の女なんて絶対抱きたくなかろうな、と、なんだかそんなどうしようもないことを思った……わけです。

 絵板にあるように、「凍結中」のあの単語だけで一人ツボった途端に出来た話で、ほんと、その、すいません。とりあえず使い慣れた活きの良い女の子を投入しましたが、雪男に名前がついていればもっとキャラがはっきり把握できる話が出来たと本気で思います。(雪男がイマイチピンとこない)

 …………。

 雪男が実はコンタクトレンズ……くはっ。

 コンタクトはさすがにありえないですけど、でもでも雪男の目は絶対に偏光レンズ採用ですよ。雪はまぶしいですし、でこぼこ分からないと命取りだし。
 ……ごめん、いい加減去ります……。午後から仕事だし。
  1. 2006/01/18(水) 10:36:26 |
  2. URL |
  3. コハ #tTQ8dwDo
  4. [ 編集]

トーシローて!(爆

いいすね!!じゃ「凍死郎 夢日記」←ざ・パクリ
>コンタクトレンズ
コハさんのことだからゴーインにメガネにすんじゃないかと思ったすよ(^^
偏光メン玉の表現とかすげー想像かき立てられます
ありがとうございました!
望む暴走コハさん!!


  1. 2006/01/19(木) 22:28:37 |
  2. URL |
  3. 夜野 #LkZag.iM
  4. [ 編集]

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